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2009年12月10日木曜日

動詞的な要素+『に』

以上の説明をまとめると以下のようになります。

『(~する)のに』:主節動詞句の表す出来事が目的とする出来事(形
   容詞の表す性質が相応しい出来事)を表す。

『(~する)ために』:主節動詞句の表す出来事が目的とする出来事
   を表す。

『(~する)ことに』:「意識や注意」が向けられていることを意味
   する主節動詞句と共に用いられて、「意識・注意」の対象と
   なる出来事を表す。

『(~し)に』:「到着点を前提とする移動」を意味する主節動詞句
   と共に用いられて、その移動の「目的」となる出来事を表す

「『(~する)ことに』、『(~し)に』(2)」の回にも指摘しました
が、大変興味深いことに、以上四つの表現と同じ内容を表すために
英語で用いられる表現はいずれもto不定詞です。動詞的な要素に
『に』が後続する日本語の四つの表現と英語のto不定詞の間には、
はっきりとした平行性が見出されます。日本語の『に』と英語のto
は、いずれも「移動先」を表現する付加詞(英語ではadposition
と言い、日本語の後置詞(格助詞)と英語の前置詞の両方を包含す
る用語)であり、且つ、いずれもこのように動詞を伴った副詞句を
形成することに用いられることは、単なる偶然ではありません。意
味と機能の面で類似した日本語の『に』と英語のtoが、やはり意
味と機能の面で良く似た用法を発達させていることの背景には、人
間言語一般に働き得る出来事の見方が映し出されているのです。

このように文法項目の意味や機能を深く掘り下げた上で、こうした
「見方」というものを仲立ちにして考えるのであれば、日本語と英
語の文法を関係付けて理解したり、日本語の訳語を活用して英語の
意味を捉えようとすることも、ある程度の妥当性と有効性を持つこ
とが期待されます。表面的な訳語の対応を求めることは、無理も多
く、寧ろ英語自体の理解を歪めてしまうことが少なくありません。
ですが、人間言語一般に働き得る出来事の見方に照らして「目的」
や「意識・注意」、「移動と到着点」と言った要素をある程度捉えた
上で行われる日英両語の比較対照は、両言語の学習にも大いに役立
つに違いありません。

『(~する)ことに』、『(~し)に』(3)

前回確認したように、『(~する)ことに』は「意識や注意」が向け
られていることを意味する動詞(句)と共に用いられて、その「意
識や注意」が向けられる対象を表現するのに用いられます。

それに対して、『(~し)に』は、(5)、(6)のように『行く』、『来る』
と用いられる頻度が圧倒的に高いようです。『行く』、『来る』は、
「到着点を前提とする移動」を表す典型的な動詞です。『出掛ける』、
『訪ねる』、『訪れる』、『訪問する』のように同じ条件を満たす動詞
なら同様に用いることが出来ます。

(5) 試合を見に東京ドームに行く。
(6) 試合のチケットを買いに来た。

それに対して、『着く』、『到着する』、『たどり着く』、『降り立つ』、
のように「到着点」を前提としても「移動」が含まれなかったり、
『歩く』、『走る』、『飛ぶ』、『泳ぐ』のように「移動」を意味しても
「到着点」が前提となっていない動詞は用いることが困難です。

(11) 試合を見に東京ドームに出掛けた。
(12) 試合のチケットを買いに訪れた。

「『(~する)ことに』、『(~し)に』(1)」の回では、(4)が用いら
れないことを見ました。それは、ここで確認したように『(~し)
に』が「到着点を前提とする移動」の「目的」となる内容を表すこ
とに反して、 (4)の主動詞『(席を)取る』がこの意味・機能的な
条件を満たさないからだということが分かります。この目的と看做
される出来事にも制限があるようです。

(4) その試合を見に良い席を取りたかった。

『(~する)ことに』、『(~し)に』(2)

『(~する)ことに』、『(~し)に』が『(~する)のに』、『(~する)
ために』と顕著に異なる点は、共に用いられる主節動詞がある種の
ものに限定されるという点です。『(~する)ことに』は、典型的に
『する』または『なる』と共に用いられ、「そうすることを決めた」
もしくは「そうすることが決まった」ことを意味します。そのため、
『する』の代わりに『決める』、「なる」の代わりに『決まった』な
どを用いることも出来ます。

(7) その試合を見に行くことにした。
(8) その試合を見に行くことになった。

『(~する)ことに』と共にしばしば用いられる今ひとつの類は、
『取り組む』、『打ち込む』、『集中する』、『務める』、『努力する』、
『挑む』、『挑戦する』や『興味がある・ない』、『関心がある・ない』、
『思い入れがある』のように、「意識や注意」が向けられているこ
とを意味する動詞(句)です。『(~する)ことに』は、「意識や注
意」が向けられる対象を表現します。

(9) その人を探し出すことに務めた。
(10) その人を探し出すことに関心がない。

興味深いことに、これらの内容を表すために英語で用いられる表現
は、(1)、(2)で例示された『(~する)のに』、『(~する)ために』
を英語で表現するのに用いられるのと同じto不定詞です。ここに、
英語のtoと日本語の『に』の間に一定の平行性が見出されます。

We decided to go to watch the game.
We are going to go to watch the game.

We tried to find that person.
We are not interested to find that person.

『(~する)ことに』、『(~し)に』(1)

前回までの2回で、『(~する)のに』、『(~する)ために』という
動詞的な要素に『に』が後続する二つの表現を扱いました。これら
は、主節の動詞が表す出来事よりも通常は時間的に後に生じる出来
事を表現し、「目的」に相当するものでした。

今度は、『(~する)ことに』、『(~し)に』を扱ってみましょう。
動詞的な要素に『に』が後続する表現という点で、形式的には極め
て類似していますが、意味や機能は随分違うようです。その違いは、
先ず何よりも、(1)、(2)の『(~する)のに』、『(~する)ために』
を『(~する)ことに』、『(~し)に』に置き換えると、(3)、(4)の
ように容認されない文になることから確認できます。

(3) その試合を見ることに良い席を取りたかった。
(4) その試合を見に良い席を取りたかった。

『(~する)ことに』は、そもそも「目的」を表現するのに用いる
ことが出来ないようです。それに対して、『(~し)に』は、(5)、(6)
のような用法があるため、「目的」を表すのに用いることが出来な
いわけではありません。さて、それでは『(~する)ことに』、『(~
し)に』の主な意味・機能は何でしょうか。

(5) 試合を見に東京ドームに行く。
(6) 試合のチケットを買いに来た。
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