では、最後に「前置詞のtoとwith(1)」で提起した、「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いてきたのは何故かという問いに答えてみましょう。前置詞のtoとwithは、各々と一緒に用いられる形容詞との関係から、それぞれ「近い・似ている」と「同じ場にある・同じ」という意味と密接に結び付いていることが分かりました。言い換えれば、X to Y、X with Yは、それぞれ「XがYに近い、XがYに似ている」こと、「XがYと同じ場所にある、XがYと同じ」ことを意味するものとして特徴付けることが出来ます。
すると、SVX to Yは「SがXをYに近いか似ている関係に移動させる」ことを、SVX with Yは「SがXをY同じ場所か同じである関係に移動させる」ことを表す構文として特徴付けられることになります。実際、SVX to Yで用いた際にcompareが本来持つとされる「例える」の意味は、「近いか似ている関係に移動させる」ことに他なりません。また、SVX with Yで用いた場合にcompareが本来持つとされる「比べる」の意味は、「同じであるか」どうかを調べようとして同じ場所に並べることになりますから、正に「同じ場所か同じである関係に移動させる」ことに相当します。
こうした理由からcompareという動詞は、SVX with Yで「XをYと比べる」という意味を、SVX to Yで「XをYに例える」という意味を表現するということが納得出来ないでしょうか。この話題の冒頭でも指摘したとおり、現在でもこの区別を意識している話者も少なくはないようです。そうした区別をあまり厳密にしない話者が増えて一方で、依然として「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いるという区別を意識している話者たちがいることも事実です。けれども、それは、大した理由もなく単に意固地でそれに固執しているというものではないらしいことが感じ取れないでしょうか。compareという動がSVX with YとSVX to Yのそれぞれの構文で用いられる際には、withとtoという二つの前置詞の意味や機能に起因する構文の違いに基づいて、動詞の意味が使い分けられていると考えるのが妥当だと思われます。
2010年7月22日木曜日
前置詞のtoとwith(4)
前回、X to Yは「XがYに近い、XがYに似ている」という意味を持ち、X from Yは「XがYから遠い、XがYと違う」という意味を持つらしいことを指摘しました。これは、同様に「近い」を意味するnearやapproximateも、「似ている」を意味するlikeやanalogousあるいはcomparableも、同様にtoと共起することから裏付けられます。因みに、toと対をなすfromの場合も、やはり「遠い」ことや「違う」ことを含意するseparateやdistinctと共起しやすいという点で同様です。
さて、それではwithの意味はどうでしょうか。toの場合と同様に形容詞との共起関係を頼りに考えてみたいと思います。先ず、「近い」や「遠い」のように具体的な意味としては、固い語ですがparallelやconcomitantやcoincidentのように「同じ場にある」ことを意味する形容詞と共起しますし、「似ている」や「違う」に類する抽象的な意味では、equalやidenticalのように「同じ」という意味の形容詞と共起します。従って、withは寧ろ「同じ場にある」こと、「同じ」ことという意味と密接に結び付いていると考えることが出来ます。
興味深いことに、これらwithと共起する形容詞の中には、parallel、concomitant、equal、identicalのようにtoとも共起するものがあり、それらがwithではなくtoと共起した場合には、「同じ場にある」や「同じ」ではなく、「近い」、「似ている」に意味がぐっと傾くようです。この点でも、withとtoの特徴付けは妥当でありそうです。
さて、それではwithの意味はどうでしょうか。toの場合と同様に形容詞との共起関係を頼りに考えてみたいと思います。先ず、「近い」や「遠い」のように具体的な意味としては、固い語ですがparallelやconcomitantやcoincidentのように「同じ場にある」ことを意味する形容詞と共起しますし、「似ている」や「違う」に類する抽象的な意味では、equalやidenticalのように「同じ」という意味の形容詞と共起します。従って、withは寧ろ「同じ場にある」こと、「同じ」ことという意味と密接に結び付いていると考えることが出来ます。
興味深いことに、これらwithと共起する形容詞の中には、parallel、concomitant、equal、identicalのようにtoとも共起するものがあり、それらがwithではなくtoと共起した場合には、「同じ場にある」や「同じ」ではなく、「近い」、「似ている」に意味がぐっと傾くようです。この点でも、withとtoの特徴付けは妥当でありそうです。
前置詞のtoとwith(3)
さて、前置詞toとfromが共起しやすい形容詞は、close、farの他にもないでしょうか。すこし固い表現になりますが、similarとdifferentがあります。これらも、前回に見たclose、farの場合と同じように、to、fromそれぞれとの共起にはっきりとした傾向があるようです。similar toとdifferent fromが頻度の高い言い方で、前置詞を入れ替えたsimilar fromとdifferent toは、それに比べて用いられにくいようです。
試しにインターネット検索を試みると、“is similar from”が約 209,000 件なのに対して、“is similar to”は約 902,000,000 件に上ります。また、“is different to”が約 11,900,000 件なのに対して、“is different from”は約 99,600,000 件を数えます。different toは、similar fromに比べて多くの使用例が見付かることから、different fromほどではないにしろ、ある程度の使用率がある表現であると見て良いでしょう。ですが、similarとto、differentとfromの結びつきは、前置詞を入れ替えた場合に比べて遥かに密接であることは確かです。
以上のことをまとめると、toは「似ている」と、fromは「違う」という意味と関係が深いということになります。closeとfarとの関連で指摘した「近い」と「遠い」の意味を合わせると、X to YとX from Yは、次のように特徴付けることが出来ます。
X to Y:XがYに近い、XがYに似ている
X from Y:XがYから遠い、XがYと違う
試しにインターネット検索を試みると、“is similar from”が約 209,000 件なのに対して、“is similar to”は約 902,000,000 件に上ります。また、“is different to”が約 11,900,000 件なのに対して、“is different from”は約 99,600,000 件を数えます。different toは、similar fromに比べて多くの使用例が見付かることから、different fromほどではないにしろ、ある程度の使用率がある表現であると見て良いでしょう。ですが、similarとto、differentとfromの結びつきは、前置詞を入れ替えた場合に比べて遥かに密接であることは確かです。
以上のことをまとめると、toは「似ている」と、fromは「違う」という意味と関係が深いということになります。closeとfarとの関連で指摘した「近い」と「遠い」の意味を合わせると、X to YとX from Yは、次のように特徴付けることが出来ます。
X to Y:XがYに近い、XがYに似ている
X from Y:XがYから遠い、XがYと違う
前置詞のtoとwith(2)
翻って考えてみると、toはfromと対になりやすい前置詞です。そこで、先ずはこれら二つの比較からtoの意味を引き出すことを試みてみようと思います。形容詞との共起関係を参照することで、toの意味がより豊かに浮かび上がるはずです。
toやfromと一緒に用いられやすい形容詞としては、第一に遠近を表すclose (to)、far (from)が思いつきます。興味深いことに、「~から近い」や「~へは遠い」の意味を表現するにしても、close fromやfar toはclose to、far fromに比べて用いられにくいようです。その証拠に、それぞれの表現を検索してみると、 “is close from”は「約 141,000 件」、“is far to”は「約 6,590,000 件」なのに対して、“is close to”は「約 101,000,000 件」、“is far from”は「約 108,000,000 件」に上ります。
“is close from”の「約 141,000 件」と“is far to”の「約 6,590,000 件」は、依然として数字は大きいように見えますが、一つ一つを見ていくと、日本人が書いたらしいページが際立って多い印象を覚えます。どうか、ご自身で検索を掛けてご確認してみて下さい。それに比べると、“is close to”の「約 101,000,000 件」と“is far from”の「約 108,000,000 件」は、いずれも桁違いに多いだけでなく、日本人が書いたらしいページも“is close from”や“is far to”ほどには目立たないようです。
このように、“close from”や“ far to”は程度の差こそあれ不自然で、“close to”や“far from”の方が自然であるというのが事実であるとすれば、toは「近い」こと、fromは「遠い」ことと密接な意味を持っているということが分かります。つまり、X to Yは「XがYに近い」ことを、X from Yは「XがYから遠い」ことを意味すると理解することが出来ます。これに従えば、compare X to Yは「XをYに近い関係に移動させる」ことを意味すると捉えられます。
toやfromと一緒に用いられやすい形容詞としては、第一に遠近を表すclose (to)、far (from)が思いつきます。興味深いことに、「~から近い」や「~へは遠い」の意味を表現するにしても、close fromやfar toはclose to、far fromに比べて用いられにくいようです。その証拠に、それぞれの表現を検索してみると、 “is close from”は「約 141,000 件」、“is far to”は「約 6,590,000 件」なのに対して、“is close to”は「約 101,000,000 件」、“is far from”は「約 108,000,000 件」に上ります。
“is close from”の「約 141,000 件」と“is far to”の「約 6,590,000 件」は、依然として数字は大きいように見えますが、一つ一つを見ていくと、日本人が書いたらしいページが際立って多い印象を覚えます。どうか、ご自身で検索を掛けてご確認してみて下さい。それに比べると、“is close to”の「約 101,000,000 件」と“is far from”の「約 108,000,000 件」は、いずれも桁違いに多いだけでなく、日本人が書いたらしいページも“is close from”や“is far to”ほどには目立たないようです。
このように、“close from”や“ far to”は程度の差こそあれ不自然で、“close to”や“far from”の方が自然であるというのが事実であるとすれば、toは「近い」こと、fromは「遠い」ことと密接な意味を持っているということが分かります。つまり、X to Yは「XがYに近い」ことを、X from Yは「XがYから遠い」ことを意味すると理解することが出来ます。これに従えば、compare X to Yは「XをYに近い関係に移動させる」ことを意味すると捉えられます。
前置詞のtoとwith(1)
compareという動詞は、SVX with YとSVX to Yの構文で用いられて、「XをYと比べる」、「XをYに例える」の意味を表現します。現代の英語では、いずれの構文で用いられた場合も、程度のこそあれ、どちらの意味も表し得るようです。けれども、元来はSVX with Yで「XをYと比べる」、SVX to Yで「XをYに例える」の意味を表現したらしく、現在でもこの区別を意識している話者も少なくはないようです。
さて、それでは何故「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いてきたのでしょうか。compareという動詞が同じである限りにおいては、SVX with YとSVX to Yのそれぞれの構文で用いられる際の違いは、少なからずこれら二つの前置詞の意味や機能の違いに因ると考えられます。
これらの構文で用いられるwithやtoを前置詞一般を指すものとしてprep.と置き換えてみると、いずれの構文もSVX prep. Yと一般化することが出来ます。これは、Goldberg (1995) Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure (Cognitive Theory of Language and Culture Series)
などでcaused motion constructionと呼ばれる構文に当たり、「S」が力を加えることで「X」が「Y」とprep.の関係に移動することを意味するものとして特徴付けられます。
この特徴づけに従えば、SVX with YとSVX to Yのそれぞれでは、「S」が力を加えることで「X」が「Y」とwithあるいはtoの関係に移動することを意味することになります。その場合の「withあるいはtoの関係」とは一体どんな関係なのでしょうか。今回は、この点から前置詞のwithとtoの意味を考えてみたいと思います。
さて、それでは何故「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いてきたのでしょうか。compareという動詞が同じである限りにおいては、SVX with YとSVX to Yのそれぞれの構文で用いられる際の違いは、少なからずこれら二つの前置詞の意味や機能の違いに因ると考えられます。
これらの構文で用いられるwithやtoを前置詞一般を指すものとしてprep.と置き換えてみると、いずれの構文もSVX prep. Yと一般化することが出来ます。これは、Goldberg (1995) Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure (Cognitive Theory of Language and Culture Series)
などでcaused motion constructionと呼ばれる構文に当たり、「S」が力を加えることで「X」が「Y」とprep.の関係に移動することを意味するものとして特徴付けられます。
この特徴づけに従えば、SVX with YとSVX to Yのそれぞれでは、「S」が力を加えることで「X」が「Y」とwithあるいはtoの関係に移動することを意味することになります。その場合の「withあるいはtoの関係」とは一体どんな関係なのでしょうか。今回は、この点から前置詞のwithとtoの意味を考えてみたいと思います。
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