以上の説明をまとめると以下のようになります。
『(~する)のに』:主節動詞句の表す出来事が目的とする出来事(形
容詞の表す性質が相応しい出来事)を表す。
『(~する)ために』:主節動詞句の表す出来事が目的とする出来事
を表す。
『(~する)ことに』:「意識や注意」が向けられていることを意味
する主節動詞句と共に用いられて、「意識・注意」の対象と
なる出来事を表す。
『(~し)に』:「到着点を前提とする移動」を意味する主節動詞句
と共に用いられて、その移動の「目的」となる出来事を表す
「『(~する)ことに』、『(~し)に』(2)」の回にも指摘しました
が、大変興味深いことに、以上四つの表現と同じ内容を表すために
英語で用いられる表現はいずれもto不定詞です。動詞的な要素に
『に』が後続する日本語の四つの表現と英語のto不定詞の間には、
はっきりとした平行性が見出されます。日本語の『に』と英語のto
は、いずれも「移動先」を表現する付加詞(英語ではadposition
と言い、日本語の後置詞(格助詞)と英語の前置詞の両方を包含す
る用語)であり、且つ、いずれもこのように動詞を伴った副詞句を
形成することに用いられることは、単なる偶然ではありません。意
味と機能の面で類似した日本語の『に』と英語のtoが、やはり意
味と機能の面で良く似た用法を発達させていることの背景には、人
間言語一般に働き得る出来事の見方が映し出されているのです。
このように文法項目の意味や機能を深く掘り下げた上で、こうした
「見方」というものを仲立ちにして考えるのであれば、日本語と英
語の文法を関係付けて理解したり、日本語の訳語を活用して英語の
意味を捉えようとすることも、ある程度の妥当性と有効性を持つこ
とが期待されます。表面的な訳語の対応を求めることは、無理も多
く、寧ろ英語自体の理解を歪めてしまうことが少なくありません。
ですが、人間言語一般に働き得る出来事の見方に照らして「目的」
や「意識・注意」、「移動と到着点」と言った要素をある程度捉えた
上で行われる日英両語の比較対照は、両言語の学習にも大いに役立
つに違いありません。
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