今度は、『射る』という動詞のいわゆる活用形について見てみたいと思います。先ず、試みに、この動詞を過去形にしてみて下さい。『矢を射る』を例に取ってやってみましょうか。さて、どんな形になったでしょうか。
(1) 矢を射た。
(2) 矢を射った。
(3) 矢を射りた。
より深く内省して頂くために、「模範解答」と示す前に、もう一つやってみましょう。『矢を射る』の後に、『(~し)て獲物を仕留めた』とつなげてみて下さい。次の三つのどの形が思い浮かびましたか。
(4) 矢を射て獲物を仕留めた。
(5) 矢を射って獲物を仕留めた。
(6) 矢を射りて獲物を仕留めた。
さあ、どうでしょうか。実は、古典語ではもちろんのこと、現在でも恐らく「標準語」的な観点に立てば、(1)と(4)が正解で、それ以外は不正解です。前回の冒頭に書きましたとおり、『射る』は上一段の動詞です。従って、古典語では、
未然:i-(zu)(射ず)
連用:i-(te)(射て)
終止:i-ru(射る)
連体:i-ru(射る)
已然:i-re-(do)(射れど)
命令:i-yo(射よ)
現代語では、
未然:i-(nai)(射ない)
連用:i-(te)(射て)
終止:i-ru(射る)
連体:i-ru(射る)
仮定:i-re-(ba)(射れば)
命令:i-ro(射ろ)
となることが想定されます。ですから、連用形+『た』、連用形+『て』に従うと、(1)の『矢を射た』、(4)の『矢を射て獲物を仕留めた』となるはずです。
ところがどうでしょう。読者の方々の中には、
(2) 矢を射った。
や
(5) 矢を射って獲物を仕留めた。
の方が自然だと感じた方がいらっしゃるのではないでしょうか。そう感じた方々の日本語は間違っているのでしょうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿