では、最後に「前置詞のtoとwith(1)」で提起した、「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いてきたのは何故かという問いに答えてみましょう。前置詞のtoとwithは、各々と一緒に用いられる形容詞との関係から、それぞれ「近い・似ている」と「同じ場にある・同じ」という意味と密接に結び付いていることが分かりました。言い換えれば、X to Y、X with Yは、それぞれ「XがYに近い、XがYに似ている」こと、「XがYと同じ場所にある、XがYと同じ」ことを意味するものとして特徴付けることが出来ます。
すると、SVX to Yは「SがXをYに近いか似ている関係に移動させる」ことを、SVX with Yは「SがXをY同じ場所か同じである関係に移動させる」ことを表す構文として特徴付けられることになります。実際、SVX to Yで用いた際にcompareが本来持つとされる「例える」の意味は、「近いか似ている関係に移動させる」ことに他なりません。また、SVX with Yで用いた場合にcompareが本来持つとされる「比べる」の意味は、「同じであるか」どうかを調べようとして同じ場所に並べることになりますから、正に「同じ場所か同じである関係に移動させる」ことに相当します。
こうした理由からcompareという動詞は、SVX with Yで「XをYと比べる」という意味を、SVX to Yで「XをYに例える」という意味を表現するということが納得出来ないでしょうか。この話題の冒頭でも指摘したとおり、現在でもこの区別を意識している話者も少なくはないようです。そうした区別をあまり厳密にしない話者が増えて一方で、依然として「XをYと比べる」にはwithを、「XをYに例える」にはtoを用いるという区別を意識している話者たちがいることも事実です。けれども、それは、大した理由もなく単に意固地でそれに固執しているというものではないらしいことが感じ取れないでしょうか。compareという動がSVX with YとSVX to Yのそれぞれの構文で用いられる際には、withとtoという二つの前置詞の意味や機能に起因する構文の違いに基づいて、動詞の意味が使い分けられていると考えるのが妥当だと思われます。
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