I was surprised.は、大抵『私は驚いた』という日本語訳が当てられます。ですが、英語、日本語のしくみに従ってそれぞれの文の意味を理解すると、事情は随分と違ってきます。いずれも、あるニュースを聞いて話者が驚いたことを表現していると想定してみましょう。すると、英語の場合にはThe news surprised me.「そのニュースが私を驚かせた」という表現が可能であるところを、「話者」をいわば主人公として出来事全体を表現しようとした結果、be Vedという受動態形式(be passive(be受身)と呼ばれるものです)が選び取られています。
この英語の受動態形式は、動詞beと過去分詞からなりますが、過去分詞は、井筒先生の『場所と力』によれば、動詞から派生される形容詞で、元の動詞が表す力の行使の「影響下」を表現します。surprisedは、「驚かす」という力の行使の影響下を意味する形容詞で、beは主語の指示対象が、その「影響下」に位置することを表します。これらのしくみに基づくと、英語のI was surprised.は、他でもなく「私は驚いた」ではなく、「私は驚かしの影響下にあった」もしくは「私は驚かしの影響下に入った」といった意味内容で、日本語では「私は驚かされた」とでも表現しなければ明示しにくい要素が含まれています。
もっとも、日本語の受身には、しばしば「主語や話者にとっての迷惑」という内容が含意されやすいため、『私は驚かされた』には英語のI was surprised.に含まれない要素が込められやすいことに注意しなければなりません。けれども、『私は驚いた』には明らかに含まれない「意味内容」がI was surprised.には含まれるということも、また間違いない事実です。
日本語で『私は驚いた』と表現する限りにおいては、「ニュースが私を驚かした」とは考えていないのです。それに対して、I was surprised.や『私は驚かされた』では、「ニュースが私を驚かした」という意味内容が程度の差こそあれ表現されているのです。英語では、be passiveの成り立ちからこのことがはっきりしていますが、日本語ではいわゆる形態素の分析をしてみないと、母語話者も見逃してしまうかもしれませんので、あらためて丁寧に見てみることにしましょう。
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